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三十年前~五千年前そして今

 先週九月二十五日、パリで開催されたファッションショーで披露された、若手のデザイナー、ヴィクトール・ヴァインサント(Victor Weinsanto)の奇抜なウェディングドレス。最後に登場したのはシースルーのタイトなドレスで、下腹部などに花びら模様があしらわれ、乳首は二つの花のよう、裾は足元からめくれて広がっている。そして首から上も漏斗状に大きく広がり、表情を隠している。
Weinsantoのインスタグラム
野人はその姿を見て思った、五千年前の縄文時代の土偶が歩いてる!と。越後・糸魚川の長者ケ原遺跡で大正五年(1916)頃出土したその土偶は、乳首や透けた身体、そして大きな器のように広がった頭がこのモデルにそっくりなのだ。
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(写真はレプリカ)
この土偶のデザインといい、火炎型土器といい、五千年前の越後の縄文人たちの造形センスには驚かされる。
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(火炎型土器上部の鶏頭冠のレプリカ)
出雲の大国主神に求婚された越(こし)の沼河比賣(ヌナカワヒメ)も、こんな婚礼衣装を着ていたのかも?しれない。
 ヴァインサントはジャン=ポール・ゴルチエの元に二年いたそうで、その奇抜なデザインはゴルチエを思わせるという。野人はファッションには詳しくないが、この衣装を見て縄文時代の土偶と共に、約三十年前に観た映画の登場人物を思い出した。スペインのペドロ・アルモドバル監督の作品「キカ」(Kika、1993公開、日本公開は翌年だった)に出演している女優ビクトリア・アブリルが着ていた、エキセントリックな服だ。「キカ」で衣装を担当したのはゴルチエだった。学生時代、野人はビクトリア・アブリルが大好きだった。横浜のフランス映画祭のため来日した彼女を見にも行った。当時、野人はエキセントリックなものが好きだった(今も)。が、約五千年前の縄文時代中期の土器や土偶が、如何にエキセントリックであるかには、まだまだ気付けていなかった。
 ヴァインサントのファッションショーから四日後の、九月二十九日。ラスベガスに完成したばかりの球体型ホール「スフィア(Sphere)」で、ロックバンド・U2の公演が始まった。学生時代、野人はU2の大ファンだった(今も)。高校生の時、東京ドームで彼らのライブを観た(B.B.キングと一緒に来日した時だ)。その後、約三十年前、U2はステージに大小いくつも設置したモニターにブライアン・イーノらが手掛けた映像やメッセージを映し出しつつ、ライブパフォーマンスした。あのZooTVツアー(1992~1993)がさらに進化し、巨大な球体内部全面に映像が映し出される、今回の異次元の空間。名曲With Or Without Youの演奏中、ステージ後方に広がる海に浮かんだ巨大な球体がだんだんと近づいてきて、球体のまん中に開いている穴に会場がまるごと吸い込まれると、会場の円天井いっぱいに無数の被造物が彫刻されている、という圧巻の映像体験。
u2.comに投稿された動画
その映像の巨大な球体を見て、野人は思った。約五千年前の、縄文時代のヒスイ大珠(たいしゅ)だ!と。
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まだ金属器のなかった当時、極めて硬いヒスイに竹や石の粉を使って穴を開けていた、縄文人たち。そこまでして開けた穴に、彼らを何を見ていたのだろう?穴は何かへの入口であり、出口であったのかもしれぬ。
 先週のヨーロッパとアメリカのファッションショーとロックンロールショーによって、野人は三十年前のことを思い出すと同時に、五千年前の縄文人たちのデザインが如何に近未来的で、不滅なものであるかを覚ったのだった。
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松尾如秋

Author:松尾如秋
自由と孤独を愛するアウトサイダーと、森羅万象を統べているものとの一対一の対話
白山と、白山に育まれているすべてのものへの讃歌
2006~奥美濃の藪山を登り始める
2009~白山三禅定道を毎年登拝
2016~19白山美濃馬場の古の山伏の行場「白山鳩居峯」のうち五宿を毎月巡拝、以後随時巡拝