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マジヤーリヤとナボル~動物たちの為に

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 十二月三十一日から一月四日は、ゾロアスター教の六つの季節祭の五つ目、マジヤーリヤ(中冬)。すべての善きものの創造主アフラ・マズダーが動物たちを創ったことを祝う祭日です。ペルシア暦の元日(ノウルーズ)はこの時期ではなく、春分です。アフラ・マズダーは初めに天空を、次に水を、次に大地を創り、さらに植物・動物・人間を創ったのでした。
 九世紀にペルシアで書かれたゾロアスター教の文献「ザードスプラムの選集」によれば、アフラ・マズダーはこれらの被造物から成る世界を初めは目に見えぬ(メーノーグ)世界(幽世(かくりよ))として創り、対抗する悪魔アンラ・マンユを聖句アフナ・ワリヤで退けてから、形ある(ゲーティーグ)世界(顕世(うつしよ))として創造したのでした。しかし、アンラ・マンユはこれらの被造物を急襲し破壊し始め、アフラ・マズダーの創造とアンラ・マンユの破壊の戦いが勃発します。アフラ・マズダーが最初に創った動物である白い牛も、アンラ・マンユに殺されてしまいました。が、その屍体からは五十五種の穀物と十二種の薬草が芽吹き、大地を覆ってゆきました。さらに、殺された原初の牛の子種が月に運ばれ光明に清められると、雌雄の牛をはじめ二百八十二種の動物たちが次々と生まれてきたのでした。大地を歩く四足獣のうち、丸い蹄のものは馬。
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(2012/11)
割れた蹄のものはラクダ、牛、羊、ヤギなど。
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(カモシカ、2022/9)
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(鹿、2021/9)
五本の爪をもつものは犬、ノウサギ、ジャコウネコ、テンなどなど。
(ノウサギ(巻頭写真)、2022/7)
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(ニホンリス、2022/12)
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(テン、2021/3鷲ヶ岳)
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(オコジョ、2020/7白山加賀禅定道)
さらに水を泳ぐ魚たち、空を飛ぶ鳥たち。
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(アオゲラ、2022/8)
アンラ・マンユが滅ぼそうとした原初の牛から、アフラ・マズダーは多様な生きものたちが世界中に繁殖してゆけるよう、仕組んでおいたのでした。
 マジヤーリヤの八十日前のアヤースリマ(十月十二日~十六日)の時には、すでに植物が創造されていました。その後、大洋・ウォルカシャ海に生えた巨樹に霊鳥スィームルグが巣を作り、草木の種を世界中に播き広めました。また、この巨樹の近くの海上に生えた不老・不死・不滅の霊樹ガオクルナ(白ハオマ)を、悪魔アンラ・マンユが蛙またはトカゲにかじらせて枯らそうとすると、アフラ・マズダーはカラという大魚に霊樹を守らせました。アフラ・マズダーは被造物を天空・水・大地・植物・動物・人間の順に創ったそうですが、創られた後の被造物は互いに絡み合い、折り合いながら成長発展し、現在の生態系が形作られたのだといえましょう。
 ゾロアスター教では月に四日、動物を食べない「ナボル」という日があります。ナボル(نبر(右から読みます))とはペルシア語で「切るな」の意、動物を屠殺しないことです。その四日とは、ペルシア暦の毎月の二日目(ワフマン)、十二日目(マーフ)、十四日目(グーウシュ・ルワン)そして二十一日目(ラーマン)。いずれも、ペルシア神話で動物たちと関わりの深い神々の日です。ワフマンはゾロアスター教の聖典「アヴェスタ」のウォフ・マナフ(善き心)。アフラ・マズダーが最初に創った神で、動物たちの守護神。ゾロアスター教の開祖ザラスシュトラが産まれる直前、アフラ・マズダーがザラスシュトラの心に送り込んだ神でもあります。悪魔アンラ・マンユがザラスシュトラの心にアカ・マナフ(悪しき心)を送り込もうとしたのに対し、アフラ・マズダーが先にウォフ・マナフを送り込み、ザラスシュトラは産まれ落ちるとすぐに笑ったと伝わります。三十歳になったザラスシュトラは、マジヨーイザルマヤ(中春、五月四日)の祭日の明け方、ダーティヤー川でウォフ・マナフに導かれて初めてアフラ・マズダー、ウォフ・マナフ、アシャ・ワヒシュタ、フシャスラ・ワリヤ、スプンター・アールマティ、ハルワタート、アムルタートの七神(アムシャ・スプンタ)と相見し、その後十年に亘って神々から啓示を受けたのでした。善き心、善き思いこそ、善き言葉と善き行いの元になります。
 マーフは月の神、グーウシュ・ルワンは牛の魂。悪魔に殺された原初の白牛の子種が月で清められ、すべての善き生きものたちが生まれたという動物たちの起源に想いを馳せつつ、ナボルを実践するのも乙なものです。

「ネモー・マォングハーイ・ガオチスラーイ(牛の子種を伴いし月に敬礼を)」(「アヴェスタ」)

ラーマンは平安の神。この日は、生きとし生けるものたちと折り合って平安にすごしたいものです。マジヤーリヤ(中冬、十二月三十一日~一月四日)の前後では、本日十二月二十七日がダーイ(創造主、現代ペルシア語ではデイ)月マーフ日、二十九日がグーウシュ・ルワン日、一月五日がラーマン日です。野人は今日は折悪しくナボルを実践するのが難しいので、明日、明後日、一月五日とナボルを実践します。
 ナボルは、生物保護・動物愛護の観点から、地域を問わずに実践可能な素晴らしい文化だと思います。わが国でも、かつては牛馬の守り神として馬頭観音が厚く敬われていました。しかし、路傍に残る馬頭観音像は今やお地蔵さんとしか思われない有り様です。
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戒律の筆頭に「不殺生」を掲げつつも、現代においてその有効な実践法を持たない日本の仏教。断食や菜食主義を実践しているスピリチュアルな人たちやマインドフルな人たちはいるでしょうが、多くの人々に実践できることではありません。月に四日、年に四十八日動物を食べないナボルの実践は、民族や文化の垣根を越えて実践できる、生きとし生けるものたちとの折り合いの日です。少なくとも、環境保護を訴えて美術品を汚すような破壊的パフォーマンスなどよりも、ずっと健全で建設的な試みです。
 因みに、ゾロアスター教では断食は否定されています。聖典「アヴェスタ」の「ウィーデーウダード」にはこうあります。

「食べ物がない者は、効果的な正義も、
効果的な農作業も、効果的な息子の出産もできない。
なぜならすべての物質界のものは食べ物によって生き、
食べ物がないと死んでしまうから。」
(「ウィーデーウダード」第三章、野田恵剛訳)

 もっとも、ゾロアスター教の教えがすべて絶対に正しいわけではありません。それは、他のどんな宗教でも主義主張でも同じこと(例えば、仏教の経典には極楽浄土に障害者も女性もいないと説かれているように)。ゾロアスター教の善き生きものには哺乳類・鳥類・魚類は含まれていますが、爬虫類・両生類・昆虫などは含まれていないようです。蛇、トカゲ、亀、蛙、アリ、ハエなどの生きものは、悪魔アンラ・マンユの創った身の毛もよだつ邪悪な生きもの「フラフストラ」とされ、それらを殺すことが善とされていたのでした。
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(アオダイショウ、2022/7(この後アオダイショウを叩いてウサギを助けた、巻頭写真))
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(カナヘビ、2020/7鷲ヶ岳)
実際に人間の身体や健康に危害を及ぼす生きものやウイルスは、当然駆除すべきです。しかし、よく調べもせずに悪獣・害虫のレッテルを貼って殺してしまうなら、偏見・迷信です。例えば、カメムシは屁っぴり呼ばわりされて嫌がられますが、臭いといっても人間の健康に差し障るほどではないでしょう。カメムシ類の多様な姿形や紋様を先入観なしに見るならば、そこに創造の神秘を感じ取ることができるはずです。カメムシの中には農作物の害虫とされる種もいますが、他の虫の体液を吸うサシガメやクチブトカメムシの仲間は益虫です。
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(アオクチブトカメムシ、2022/11)
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(オオトビサシガメ、2022/11)

窓と網戸の間に見つけた 大きな大きなハエを見つけた
部屋に入られては困るので 退治しようと思ったが待て
様子を見てみようもう少し すると網戸の外側より
近寄ってきたハエトリグモが だけど網戸の反対からでは
不可能だハエを捕ることなど クモも気づいてあちらこちらと
探し回って三十分後に ついに現われた網戸の内に
そっと獲物のハエに近寄り 飛びついたその大きなハエに
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間一髪でハエは下に飛び  ハエトリグモは逸した好機
野人は窓で繰り広げられた このドラマ見て思ったものだ
無闇にハエを殺したならば ハエトリグモは何を喰うのか?
人のさかしらで手を下すより 自然の掟に任せるがよい
人が手を出すのは二の次だ 無闇矢鱈と命奪うな
翌日ハエはいなくなっていた どこか隙間から逃げおおせたか
それともクモに仕留められたか? 斯様(かよう)に続いてゆくのだ命は

ハエもクモも蛙も蛇も、この生態系の一員です。みんな、生態系の中で何らかの役割を果たしています。すべての善きものの創造主がこの生態系も創ったのならば、彼らを無思慮に殺すべきではないでしょう。むしろ、生態系のバランスを破壊しつつある我々人類こそ、身の毛もよだつ「フラフストラ」になりかねません。被造物同士の絡み合い・折り合いを維持しつつ、この生態系と種と遺伝子の多様性を保全してゆくことこそ、神慮に適うのではないでしょうか。
 この年末から年始にかけて、ナボルを実践しマジヤーリヤを祝いつつ、善き思いを深めてゆきたいものです、生きとし生けるものたちと折り合ってゆくために。

「シカの棲む山に行きましょう、
ウサギ跳ぶ草地に行きましょう。
だけどそこには狩人がいる、
彼が森の生きものを殺したらどうしましょう?
狩人よ彼らを射たないで、
さもないとあなたの愛する人が苦しむでしょう、
動物たちの魂はあなたを許しはしないでしょう。」
(ペルシア民謡「狩人の歌」、ラトビアのエスノ・ジャズバンドBARAKAのアルバムGOLE SANGAMより拙訳)

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松尾如秋

Author:松尾如秋
自由と孤独を愛するアウトサイダーと、森羅万象を統べているものとの一対一の対話
白山と、白山に育まれているすべてのものへの讃歌
2006~奥美濃の藪山を登り始める
2009~白山三禅定道を毎年登拝
2016~19白山美濃馬場の古の山伏の行場「白山鳩居峯」のうち五宿を毎月巡拝、以後随時巡拝