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マダニフィストの再来~虫の知らせ

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 俺の名はマダニフィスト、ある野人の気血を吸っている魔ダニだ。
 奴は山に登る日取りを決めるのに、千七百年ほど前に書かれた「抱朴子」に倣って、忌日を避け佳日を選んでいる。無論、だからといってその日の天候や山の状態、そして奴の体調が好いとは限らねぇ。ここ数ヵ月は奴が選んだ日だけが雨天で、その前後は好天続きという結果が続いてるぜ。野人たる奴は、雨でも天候が回復傾向にあれば、人に会わなくて済むのでカッパ着て嬉々として登る。が、ずっと雨ぢゃあさすがに山からの警告と受け取って延期する。藪好きの奴には霧で視界のない藪の危険さが分かるし、ズブ濡れになった登山靴が夜中にカチンコチンのシンデレラシューズになっちまうことも知ってるからな。山との対話ってぇのは、登山口から始まるんぢゃあねぇぜ。登山の計画を立てる時から始まってるんだ。真剣に山と対話してりゃあ、山が招いてるのか今はヤメロと警告を発してるのか分かろうってもんだ。山からの警告、そいつはつまり「虫の知らせ」とも言えるナ。
 六年前(2014年)の9月26日、奴は西美濃の藪山・雷倉に登ったんだが、林道の落石が車の腹に当たって走行不能に。今年(2020年)同様クマの多かった年で、山中では二度もクマと相見。下山後レッカー車で車を運んだ後、慌ててたせいかケータイ電話を落としてしまい画面ヒビ割れ・・・。車もケータイも壊れクマさんに二度も出会う、という稀有な日だった。その翌日、御嶽山が噴火した・・・。半月ほど前に御嶽山で火山性の地震が急増していたので、奴は御嶽山方面へは行かぬようにしてたんだが、噴火前日の出来事はやはり虫の知らせだったんだろう。
 山に限ったことぢゃあなく、虫の知らせってもんは自分や身内などの不幸災難を予め知らせてくれるもんだ。その時は気づけず、後になって「ああ、そうだったのか・・・」と感じるもんだがな。奴の別れた奥さんが病を患い、奴は子供宛ての小包に十何年ぶりかの彼女への手紙を入れて送ろうとしたことがあった。窓口で宛て名を書こうとして、宛て先の住所を記したメモを家に置き忘れてきたのに気づき、翌日改めて送ることにした。その夜半、子供から彼女の訃報が届いた・・・。
 そもそも「虫の知らせ」の「虫」ってぇのは、昔の中国で人間の体の中にいるとされていた三匹の虫(三尸(さんし))のことだ。「抱朴子」に

「身中に三尸有り、三尸の物為(た)る、形無しと雖も実に魂霊鬼神の属也。人をして早く死せしめんと欲す、此の尸は当に鬼と作(な)ることを得、自ら放縦に遊行して、人の祭酹(まつり)を享(う)くべし。是を以て庚申の日に到る毎に、輒(すなわ)ち天に上りて司命に白(もう)して、人の為す所の過失を道(い)う。」

ってある。三尸は宿主にしてる人間が亡くなればお供えにあずかれるので、年に六回ある庚申の日になると天に上り、宿主のしでかした悪事を全部、司命っていう寿命を司る神さんにチクるのさ。悪事が大きければ寿命もその分減らされるってワケだ。「太清中黄真経」には、三尸のうち上虫は脳宮(上丹田)に、中虫は心宮(中丹田)に、下虫は腹胃(下丹田)に居て、様々な欲望を人間に起こさせると記されている。三尸は穀物の気から栄養を取ってるから、身中の三尸を絶滅させるには穀物を断つことが仙人を目指す者には必要なのさ。魏の曹操の息子・曹植は、もともと道術などウソっぱちだと思っていた。が、曹操が試しに左慈らを閉じこめて穀物を断たせてみたところ、一ヶ月たっても顔色よく気力自若としているのを見、五十年食べてないわい、と云うのを聞いて、疑いが解けた、と「釋疑論」に書いてるぜ(「抱朴子」)。三尸ってぇのは俺らのご先祖さまみてぇなもんだが、俺らはアンタらの気血を吸って栄養タップリもらってるんで、穀物を断っても俺らにゃビクともピクともしねぇぜ。
 三尸が人知れず身体を出入りして、寿命を司る天界のお役人さんに悪いことを報告に行く、それが「虫の知らせ」のルーツのようだが、俺らは別に誰にもチクりゃあしねぇぜ、奴のやったことも心の中で起こったことも全部知ってるけどな。俺らはアンタらをやさ~しくチクリと刺すだけだ、痛み止め付きでな。それにしても、「虫の知らせ」ってのはいい言葉だ。宗教なんかに関係なく使えるもんな。
 そういや、奴は数日前にこんな夢を見た。

重い荷物を持って旅の移動中、奴は特急列車を降りて乗り換えるところだった。混雑し不機嫌に荷物を床に降ろす奴に、とあるオバサンが名前を呼びかけ話しかけてきた。
「僕のこと知ってるんですか?」
と声の主を探しつつ答えると、
「私、山の上にいるんですけど、いつも見てますもん。」
とオバサンの返事。びっくらこいて相手を探したが、オバサンの姿はなく、見上げると紺青の空高く日輪が輝いていた。

きっと、山登りの予定日がまたもや雨天で不機嫌になっていた奴を、山の神さんがたしなめに来たんだろう、和光同塵してフツーのオバサンとなってナ。

「敢えてするに勇ならば則ち殺され、敢えてせざるに勇ならば則ち活(い)く。・・・天網恢々、疏にして失わず。」(「老子」第七十三章)
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松樸裏

Author:松樸裏
自由と孤独を愛するアウトサイダーと、万物の母たる大自然との一対一の対話
2006~奥美濃の藪山を登り始める
2009~白山三禅定道を毎年登拝
2016~19白山美濃馬場の古の山伏の行場「白山鳩居峯」のうち五宿を毎月巡拝、以後随時巡拝