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風は目を羨み目は心を羨む

 二ヶ月前(2020年7月7日)の当ブログ「なぜと問うなかれ」で、「荘子」外篇の次の話を紹介した。

「夔(き)という一本足の獣が、ムカデに言った。
「オイラは一本足でピョンピョン歩くが、アンタにゃかなわん。今、アンタは無数の足を使ってるけど、どうやってるんだい?」
ムカデは答えた。
「そうじゃねぇ。オメェさんは、唾吐く奴を見たことあるかい?ペッと吐けば、でっけぇ飛沫(しぶき)は珠(たま)のよう、ちっこい飛沫は霧のよう、交じり合って落ちてく飛沫は数えようもねぇ。今、オレは生まれながらの機能を動かしてるだけだ、なぜそうなってるかなんて分かりゃしねぇ。」
ムカデがヘビに言った。
「オレはたくさんの足で歩いてるのに、足のねぇオメェさんに追いつけねぇ、なぜだ?」
ヘビは答えた。
「生まれながらの機能の動きを、どうやって変えられるのさ!アタイは足なんかいらないよ!」
ヘビが風に言った。
「アタイは背や脇腹くねらせて進むから、足で歩くのに似てるわ。今、アナタはひゅうひゅうと北海に起こり、ひゅうひゅうと南海へゆくけど、足も何もないわね、どうなってるの?」
風は答えた。
「そうだ。私はひゅうひゅうと北海に起こって南海へゆく。しかし、一本の指で私に勝(まさ)り、踏みつけて私に勝ることもできよう。だが、大木をへし折り大家屋を吹き飛ばせるのは、私だけだ。小さな敗北たくさんやらかして、大きな勝利を掴むのだよ。大きな勝利を掴めるのは、ただ聖人だけだ。」
(「荘子」秋水篇、拙訳)

話はここで終わっているが、実はこの話の冒頭には

「夔(き)はムカデを羨(うらや)み、ムカデはヘビを羨み、ヘビは風を羨み、風は目を羨み、目は心を羨む。」(同上)

と記されている。伝わらなかった話の残りを、「荘子」に倣って続けてみよう。

風が目に言った。
「私は大海と大陸の上を吹き過ぎながら移動してゆくけど、あなたはその場を動くことなく、はるか彼方のモノを捉えている。どうやっているのか?」
目は答えた。
「ワタクシが視線を向ければ、手近なモノだけでなく、遠くの山並も水平線も捉えることができます。夜、空を見上げれば、何光年も離れた煌めく星々を捉えることができます。光さえあれば、ワタクシは動かずともそれらを捉えることができるのです。」
目が心に言った。
「ワタクシは、瞳に映る形あるモノ、光あるモノを捉えることはできます。が、アナタのように形なきモノ、光なきモノを捉えることはできません。アナタはどうやっているのかしら?」
心は答えた。
「僕の亡き妻の三回忌の数日後、うたた寝していると、すぐ側で子供がわがまま言う声がし、「しょうがないわね・・・」となだめる妻の声がした。姿は見えなかったが、手で声のする方を探ってみると、床の上に彼女の手の感触があった。しばらく手を重ね合わせたままでいた・・・。見えなくっても、僕には彼女と幼くして先に天に召されたあの子が、二十年ぶりに再会できたのが分かったよ。目に見えるモノがすべてじゃない。目を閉じてこそみえてくるモノがあるものだね。」
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松樸裏

Author:松樸裏
自由と孤独を愛するアウトサイダーと、万物の母たる大自然との一対一の対話
2006~奥美濃の藪山を登り始める
2009~白山三禅定道を毎年登拝
2016~19白山美濃馬場の古の山伏の行場「白山鳩居峯」のうち五宿を毎月巡拝、以後随時巡拝