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なぜと問うなかれ

 COVID-19によるパンデミックで、世界中ですでに五十万人以上が亡くなり、日本で亡くなった方も千人に迫っている。COVID-19と名づけられたこのウイルスに、私たち人類は得てして、こう問いかけたくなる。
「なぜこんなコトをするんだ?」
「何のためにそんなコトするのよ!」
 「荘子」外篇に、こんな話がある。

「夔(き)という一本足の獣が、ムカデに言った。
「オイラは一本足でピョンピョン歩くが、アンタにゃかなわん。今、アンタは無数の足を使ってるけど、どうやってるんだい?」
ムカデは答えた。
「そうじゃねぇ。オメェさんは、唾吐く奴を見たことあるかい?ペッと吐けば、でっけぇ飛沫(しぶき)は珠(たま)のよう、ちっこい飛沫は霧のよう、交じり合って落ちてく飛沫は数えようもねぇ。今、オレは生まれながらの機能を動かしてるだけだ、なぜそうなってるかなんて分かりゃしねぇ。」
ムカデがヘビに言った。
「オレはたくさんの足で歩いてるのに、足のねぇオメェさんに追いつけねぇ、なぜだ?」
ヘビは答えた。
「生まれながらの機能の動きを、どうやって変えられるのさ!アタイは足なんかいらないよ!」
ヘビが風に言った。
「アタイは背や脇腹くねらせて進むから、足で歩くのに似てるわ。今、アナタはひゅうひゅうと北海に起こり、ひゅうひゅうと南海へゆくけど、足も何もないわね、どうなってるの?」
風は答えた。
「そうだ。私はひゅうひゅうと北海に起こって南海へゆく。しかし、一本の指で私に勝(まさ)り、踏みつけて私に勝ることもできよう。だが、大木をへし折り大家屋を吹き飛ばせるのは、私だけだ。小さな敗北たくさんやらかして、大きな勝利を掴むのだよ。大きな勝利を掴めるのは、ただ聖人だけだ。」
(「荘子」秋水篇、拙訳)

 「荘子」に倣って、COVID-19に尋ねてみよう。

ホモ・サピエンスがCOVID-19に言った。
「君はアッという間に地球上に広まってしまったが、なぜだ?何のために?」
COVID-19は答えた。
「ワシにゃ何にも分からねぇだよ。ワシの爺さま婆さまは中国の武漢で生まれたらしいが、人間に移ってからというもの、たちまち自動車やら船やら飛行機やらに乗せられて、知らない土地に連れてゆかれたあるよ。ワシらはただ、生まれながらの機能に従ってるだけで、こんなことになるなんて夢にも思ってなかっただね。アンタたちホモ・サピエンスは、なんで地球の上をそんなにしてまで動き回ってるのかい?何のためだい?」

 「荘子」内篇に、

「罔両(もうりょう、影の周りの薄影)が影に言った。
「さっきは君は行き、今は君は止まってる。さっきは君は坐り、今は君は立っている。なんと節操のないことかね?」
影は答えた。
「オラは何かに依存してこうしてるのかな?オラが依存してる何かも、何かに依存してそうしてるのかな?オラはヘビやセミの脱け殻みたいなモノに依存してるのかな?なぜそうなのか分からないし、なぜそうでないのかも分からない。」」
(「荘子」斉物論篇、拙訳)

とある。人間は、なぜこんなに地球上を動き回るのか?何のために地球を温暖化させ、他の生きものの生息環境を破壊し、人類の次に繁栄する生きものを除くすべてのものに有害無益な大量破壊兵器を作り続けるのか?問うてみたところで、その答えはCOVID-19とたいして変わらないだろうし、その動きはやめられない止まらない。飛沫を飛ばしてそんなことを問うよりも、老子爺さんの古くて新しい「小国寡民」の理想、陶淵明の「桃源郷」に少しでも近づける生活を、できる範囲で実践するにしくはなかろう。

「郷土の食べ物おいしくいただき、
郷土の衣服を着てよろこび、
習俗楽しみ、住居で安らぐ。
隣の国と相望み、聞こえるニワトリ・イヌの声。
だが住民は老いに至るまで、行き来しようとも思わない。」
(「老子」第八十章、拙訳)

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松樸裏

Author:松樸裏
自由と孤独を愛するアウトサイダーと、万物の母たる大自然との一対一の対話
2006~奥美濃の藪山を登り始める
2009~白山三禅定道を毎年登拝
2016~19白山美濃馬場の古の山伏の行場「白山鳩居峯」のうち五宿を毎月巡拝、以後随時巡拝