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白骨との対話

 その屋敷は、意識の底にあった。私は肘かけ椅子に腰をおろし、一息ついた。ふと、私の両脇に何かが垂れ下がっているのに気がついた。後方から傾斜しつつ伸びる前腕骨。その先に、巨大な五本の指が柳のように垂れていた。その骨格は紛れもなく、私の骨格だった。仰天した私の頭から、無数の蒸気が昇るのが感じられた。
 私はおそるおそる、背後にあるはずの私の髑髏を見ようとした。だが、首が硬直して振り返ることができなかった。両脇の白き腕骨に触れると、頑丈でびくともしなかった。まるで、恐竜の化石のようだった。
 私は奴に、私の白骨に尋ねた。
「この手は俺を守っているのか、それとも引き裂こうというのか?」
沈黙の後、奴はU2の曲の一節を低く歌った。
「創造する手には、破壊もできる。愛の手にも、愛の手にも!」
奴の声が館に反響し、フェイドアウトしてやがて消えた。私は再び尋ねた、
「どうして顔を見せてくれないんだ?」
奴は鼻で笑った後、謎めいた言葉を発した。
「見れないものは、見えども見えず。」
 ふと、左前方にある窓から外の景色が見えた。私は今一度、左側に首をよじってみた。だが、ダメだった。渾身の力で反対側に振り向くと、其処には屋敷の受付嬢と、亡き妻と子がいた。受付嬢が
「この人は、旦那さんですか?」
と聞くと、妻は首肯いた。私は、私の髑髏が発した謎の言葉を大急ぎで机上の紙になぐり書きした。
 見えども見えぬものが、私を守っていた。見えども見えぬものが、私を支配していた。奴から逃れる術はなかった。私を生かすも殺すも奴次第であり、奴がその巨大な手を創造に使うか、それとも破壊に使うかは、私次第であった。
 奴の白く巨大な手が、私の心臓をやさしくつまんだ。私の心臓は手まりとなって弾み、ひーふーみーよーいーむーなーやーここのとお。とおとおさめてまた、ひーふーみーよーいーむーなーやーここのとお・・・。奴のまりつきが続くかぎりは、私は生かされ続ける。奴のまりつきが終わったとき、そのときこそ、奴と私は墓の下で一つになるだろう。

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Haxanjunrei

松樸裏

Author:松樸裏
自由と孤独を愛するアウトサイダーと、万物の母たる大自然との一対一の対話
2006~奥美濃の藪山を登り始める
2009~白山三禅定道を毎年登拝
2016~19白山美濃馬場の古の山伏の行場「白山鳩居峯」のうち五宿を毎月巡拝、以後随時巡拝