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マダニフィストの手記4・蓼食う虫

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 俺の名はマダニフィスト、ある男の心に寄生している魔ダニだ。「蓼(たで)食う虫も好き好き」っていわれる通り、生き物にはそれぞれの好みがあるもんだ。中国の古典「荘子」には、こうある。

「ヒトは家畜を食べ、シカは草を食い、ムカデはヘビをうまいと思い、トンビやカラスはネズミを好む。この四者のうち誰が正しい味を知っているのだろうか。」

たしかに、アンタらはブタやウシやニワトリを飼って喰い、奴らが豚コレラなどの伝染病にかかれば殺処分しちまう。シカはアンタらの価値観におかまいなしに草木を喰うので、あちこちの山は防護ネットだらけだ。
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写真は伊吹山だぜ。ムカデがヘビを狙うことは、四世紀初頭の「抱朴子」にも

「南人は山に入るに、皆竹管を以て活きたる呉蚣(むかで)を盛る。呉蚣は、蛇有るの地を知れば、便ち管中に動き作(おこ)るべし。此の如きときは、則ち詳に草中を視れば、必ず蛇を見るなり。」

ってあり、呉蚣を粉末にして蛇にかまれた傷を治すとも記されてる。わが国のスサノヲノミコトは、根の堅州国でオホクニノヌシノカミに頭のシラミならぬムカデを取らせたもんだが、ムカデには、スサノヲが出雲で退治したヤマタノヲロチの霊を除ける意味もあったんだろう。トンビやカラスはネズミの天敵。クマネズミが人間の建物から外へ出た瞬間、カラスに啄まれたのを見たことがあるぜ。
 俺らはアンタら人間だけでなく、家畜にもシカにもイノシシにもネズミにも、鳥にもコウモリにも爬虫類にも寄生しておいしい血をいただいてるんだが、好みの宿主は種類によって「蓼食う虫も好き好き」だ。俺らは卵からオギャーと産まれて幼虫となり、脱皮して若虫になり、さらに脱皮して成虫となる。勘違いしないでほしいのは、年がら年中吸血してるワケじゃないってことだ。幼虫・若虫・成虫の各齢期に一回ずつ、ご縁のあったご宿主さまに喰らいつき、腹イッパイになれば離れるのだ。だから失敗しない限り、俺らのご宿主さまは生涯にお三方しかいないのさ。良縁祈って、八本脚の先頭二対にあるハラー器官で熱や二酸化炭素やアンモニアを感知し、接触して徘徊、うまそうな所に頭をもぐり込ませ、セメント状の接着剤や痛み止めの入った唾液を注入して吸血を開始する。種類によってはオスはほとんど吸血せず、単為生殖、つまり処女懐胎するのもいるわよ。おいしい血をたっぷり吸って体がポンポンに膨れ上がれば、地面に落っこちるのさ。俺ら自身は病原体なんて持ってないぜ。ネズミや獣や鳥に寄生して血を吸ったとき、奴らの病原体に俺らが感染しちまうと、その後に寄生したご宿主さまに唾液と一緒に移してしまうってワケだ。産まれつき母ちゃんの感染を受け継ぐことも無きにしもあらずだがな。
 「蓼食う虫も好き好き」というが、俺らは蓼なんて喰ったことがない。草は俺らにとって、ご縁のあるご宿主さまを待ち伏せるための隠れ場だからな。中国の薬物書「神農本草経」に、タデ科のアイ(蓼藍)の実は

「諸毒を解し、蠱、蚑、注鬼、螫の毒を殺す。久しく服せば、頭は白からず、身を軽くす。」

ってある。「蠱」は寄生虫、「螫」は毒虫が刺すこと。蓼藍の葉は蓼ほど辛くなく、アンタらに古くから藍染めの染料として、また解毒の薬として使われてきた。
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俺らはアンタらに寄生虫だの毒虫だのと呼ばれてるけど、アンタらだって地球に寄生して、山を削り川を付け替え、大気を汚し海を穢してる毒野郎ぢゃないか。
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地球が、アンタらが生きてゆくのに必要な宿主であるように、俺らにとっちゃアンタらは、生きてゆくための大切なご宿主さまなんだぜ。お互い、仲よくやってゆこうじゃないか。得道の聖人・老子じいさんは、こう説いてる。

「聖人は常の心無く、百姓の心を以て心と為す。善なる者は吾之を善とし、不善なる者も吾亦た之を善とす。徳、善なり。信ある者は吾之を信とし、不信なる者も吾亦た之を信とす。徳、信なり。」

「江海の能く百谷の王為(た)る所以の者は、其の善く之に下るを以て、故に能く百谷の王為り。」

大自然の道と一つになったものは、俺らのようなヤツでもアンタらのようなヤツでも、けっして邪魔者扱いしないのさ。
 アンタらが俺らのモノではないように、地球はアンタらのモノではない。生きてゆくためにご利用させていただいているだけだ。シカもムカデもトンビもカラスも、そして俺らも、アンタらと同じように持って生まれた性情に順って生きているのさ。この恢々たる天網の下、クダラん分派争いなんてやめようぜ、なぁブラザー。

同じ世の中をへだてて蚊帳哉 (豪潮律師)

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松樸裏

Author:松樸裏
自由と孤独を愛するアウトサイダーと、万物の母たる大自然との一対一の対話
2006~奥美濃の藪山を登り始める
2009~白山三禅定道を毎年登拝
2016~19白山美濃馬場の古の山伏の行場「白山鳩居峯」のうち五宿を毎月巡拝、以後随時巡拝