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小シウド谷・芦倉山放浪1


 別山の麓に広がる秘境、尾上郷。尾上の名は、男神を祭神とする別山(四海波岳)より流れ出る男神川に由来する、と、幕末~明治初の「斐太後風土記」にあります。
 7月30日朝4時半、尾神橋手前の林道入口ゲートに車を停め、薄明の中、ダートを歩き始めました。40分程歩くと祠があり、中には文政年間奉納の石仏。多臂で宝冠を被っており、おそらく馬頭観音でありましょうか。般若心経をお唱えしました。近くには廃屋が数件あります。かつて、尾上郷を含む御母衣ダム水没地には、白川郷同様の合掌造りの集落があったそうです。合掌し、念仏をお唱えしました。
 6時前、発電所を過ぎると、ようやくダム湖は終わって右下に尾上郷川の河原が現れました。コブ谷の橋を渡ったあたりで東の山の端に日が昇り、やがて大シウド谷が右下に。


大シウド谷沿いの道を登ってゆくと、ミヤマカラスアゲハが出迎えてくれました(冒頭写真)。
 7時15分頃、小シウド谷への分岐の橋を渡り、谷の左岸の道を南西へと登ってゆくと、
「王周堂谷(芦倉)林道」と「天狗山林道」と書かれた標識が草の上に倒れている分岐がありました。「シウド」という谷名は周堂と書くようです。(斐太後風土記には「シホド(鹽處)」と書かれています。)左の道は一旦下って小シウド谷を渡り、右の道は小シウド谷の左岸をずっと上がっています。右の道を進みました。
 因みに、朝鮮半島では「周堂」とは婚姻の際などに忌む鬼神だそうです。尾上郷川が男神の川だとすれば、周堂谷は鬼神の谷かもしれません。どうか、鬼神に騙されませんように。
 かつての白山行者の道、「鳩居十宿」の一つ、中州ノ宿は、この小シウド谷と、石徹白側に流れる保川を分ける、芦倉山~天狗山の尾根の鞍部にあります。昨年8月に保川林道から中州ノ宿を訪れた際、谷が東に流れているのを確認しました。小シウド谷の林道の何処から沢を詰めようか、と思いながら歩いているうちに、8時半、林道終点に着いてしまいました。林道の先には、藪の中に踏み跡が続いています。地形図では林道終点までは結構距離があり、ずいぶんと早く着いたものだな、と思いましたが、広場のような行き止まりの先の踏み跡は、とても車の入れる状態ではありません。少し引き返すと左手に小さな滝があり、さらに戻ると、堰のある比較的大きな沢があります。この沢を登ってみることにしました。
 水の豊かな沢を腰まで水に浸かって登り、稜線を目指しました。沢にはウツボクサが咲いていました。



谷を最上部まで詰めると藪山の右肩に出、その山の頂へ。大木のある完全な藪、展望が得られず何処なのか全く分かりません。地形図をよく見直すと、林道終点手前の谷は西からではなく、南の天狗山の方から流れています。此処は天狗山辺りだろうか…しかし、僅かに見えた展望は、谷を挟んで西に山があり、その山と南西に見える堂々たる山が尾根で繋がっていました。芦倉山のように見えますが、芦倉山の南東の林道終点付近から芦倉山の北東に出るはずはない…
 何か手掛かりはないかと藪中をあちこちさ迷いましたが、踏み跡もない藪のみ。兎に角、芦倉山~天狗山の尾根上に居るとすれば、南西に下れば必ず石徹白に出られるはずです。11時すぎ、意を決して藪を下りました。南西に下る沢に出たので、この沢を下ることに。水量豊富で、小さな滝壺では胸まで水に浸かりながら下降。クガイソウやギボウシが咲き、カエルやヘビものんびり泳いでました。藪漕ぎ後の沢下りは気持ちよいことこの上ないのですが、手帳も地形図も濡れ、携帯の電源がつかなくなって写真撮影不可能に…
 13時前、谷の上の岩窟で一休み。さらに下ると向かいからの別の谷と合流、そのすぐ下流に橋が架かっていました。これで何とかなると安堵したのも束の間、橋上に登ると、橋の両側の道は藪でした。廃道です。気を取り直して沢を下ってゆきましたが、ついに素手では降りられぬような滝に遭遇。両岸は断崖絶壁で迂回ルートもありません。沢下りは諦め、両岸に聳える尾根のどちらかに付くことにしました。
 西に下っているつもりでありましたが、磁石を見ると右岸の尾根が南、左岸が北になっています。???。つまり東に下っていることになります。
 右岸の藪尾根に登ると、尾根は此処で切れ落ちていました。沢に戻って左岸の尾根へ。急峻で藪も凄まじいですが、足の踏み場もないツル藪の下をふと見ると、黒いモノが見えました。タイヤです。こんな所にタイヤがあるからには、上に道があることは間違いありません。14時15分、はたして、上に道がありました。が、林道というより踏み跡で、車の通れる道ではありません。先程の橋に繋がる廃道でしょうか?道の背後の崖に坐し、白山権現(観音さま)に祈りました。今日はおそらく、野宿でしょう。
 踏み跡は藪の中を北東へ続いており、勾配はほとんどありません。人がひとり何とか渡れる幅の堰を渡ってしばらく進むと、14時40分、明らかな林道に出ました。何処かで見たような気もしますが、何処なのか分かりません。少し歩くと、左手に小さな滝。アッ!なんと、此処は六時間前に歩いた小周堂谷の林道の終点らしき所でした。まるで鬼神に騙されたかのよう。まさに堂々周りです。しかし、無事に戻れたのは観音さまのお慈悲でありましょうか。
 日に照らされた明るい林道を下ってゆくと、
濡れた衣類も乾いてきます。北東に日照岳の姿。延々と下って尾神橋が近くなり、振り返ると、丸山の姿を拝むことができました。18時40分、林道ゲート着。
 それにしても、私は一体、何処をさ迷ったのでしょうか?林道から沢を登って沢を下り、六時間後に同じ地点に戻ったことだけは確かですが、彼処は何処だったのでしょう?異界だったのでしょうか?
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松樸裏

Author:松樸裏
自由と孤独を愛するアウトサイダーと、万物の母たる大自然との一対一の対話
2006~奥美濃の藪山を登り始める
2009~白山三禅定道を毎年登拝
2016~19白山美濃馬場の古の山伏の行場「白山鳩居峯」のうち五宿を毎月巡拝、以後随時巡拝